狭小住宅のお家紹介や設計図を見ると本当によく出てくるのがスキップフロア。
スキップフロアは1つの階の中に段差を付けて複数のレベルの床を作り出す設計。壁で仕切るのではなく段差で空間を仕切る手法で、特に床面積が限られた狭小住宅でよく使われる手法です。
レベルの異なる床が複数存在する空間はメリハリがありおしゃれ感がありますが、ネットで検索すると「スキップフロアはやめたほうがいい」という意見も見られますよね。
「スキップフロアはやめたほうがいい」は本当なのか、その根拠は何か、実際に狭小住宅に住んでいてスキップフロアも採用した私が解説していきます!
スキップフロアやめたほうがいいのホントとウソ
空調が効きづらい
○ おっしゃるとおりです!
空間を壁ではなく段差で仕切るスキップフロアは、空間が広いため個室のように冷房・暖房が効率よく効くわけではありません。この場所だけ温めたい、と思っても空気は共有する別の空間に流れて行ってしまうので、暖房をずっとつけていないと寒い、といったことが起こります。
空調効率の悪さはスキップフロアの最大の欠点かもしれませんね。まぁ、狭小住宅だとスキップにしなくても階段とフロアの間に扉をつけない場合も多いのでスキップフロアのせいとも言えないのかもしれませんが。
階段ばかりで疲れる
× そんなことはないしスキップのせいではない。
同じ高さの建物を上まで上るとしたら、通常の階段だろうとスキップフロアだろうと上がる階段の高さは同じです。むしろスキップフロアのほうが一気に登る高さが少ない分楽と感じる人もいるのではないでしょうか。
ただ、頻繁に移動が発生するスペースの中に(例えばキッチンとリビングなど)多めの段差が登場すると、疲れるなと思うこともあるのかもしれません。そのあたりは想像力を働かせる必要がありそうですね。
工事費が高くなる
○ 本当です。でもその分のメリットは十分生み出せる設計です。
同じ高さの建物の中に床が3層あるのと、スキップフロアで半階ずつ上る6層あるのとでは当然施工の複雑度が上がります。ローコスト住宅を目指す方にはおすすめしません。
ただし空間にメリハリを出すことができ、おしゃれな印象になるスキップフロアは、割高になることを考えてもぜひ検討したい手法だと思います。特に壁であまり仕切りたくない狭小住宅にはおすすめです。
使わない空間が増える
△ 作り方次第ですね。
段差を生かして階段下に収納を作る、ロフトを作って子供部屋や客間にする、というアイデアはよく見られます。
少しでも床面積を増やして有効活用をしようとするのは狭小住宅あるあるなのですが、やはり高さやアクセス方法が制限された場所は使い勝手が悪いです。
- 高すぎる場所
- 低すぎる場所
- 奥まった場所
- はしごで上る場所
- 立って歩けない高さ
などはどうしても頻繁には使いづらいため、有効活用できない可能性があります。それであればなしにしておいたほうが他の場所が広く使えたのに、ということになってしまうかもしれません。
プライバシーが守れない
○ その通り。完全なプライバシーは守れません。
人間とは不思議なもので視線がぶつからない、違う床レベルにいるだけでちょっと別の空間にいるような感覚になるものです。
ただし、それで得られる効果はほぼ視覚だけ。
壁や仕切りを設けなければ音や臭い、光などはフラットな床とあまり変わらず共有されるので、個室と同じように使おうとするのは無理があります。
危ない
△ 階段含め落下の危険があればガードが必要。木造では建物強度の不安も。
ロフトの梯子や床からの落下、脇が空いた階段からの落下などは確かに考えられます。小さな子供のいる家などではガードをするなどの工夫が必要でしょう。ただし小さいうちの数年のことではあります。
別の意味では床が断続的になるため建物のバランスがとりづらいです。在来工法でスキップフロアを採用する場合、強度を保つために結局壁を作らなければならないことになるかもしれません。
かえって狭くなる
△ 本当だが作り方次第でもある。家の形状にも向き不向きがあります。
かえって狭くなるのはある意味本当です。狭くなる、の意味は3つあり、それは
- 区切られた床そのものが狭い
- 床が階段にとられる分だけ狭い
- 天井高が低く狭く感じる
ということです。
一つのフロアを段差で区切ってしまうので、一つながりにしておくよりもそれぞれのエリアの面積は狭くなります。狭小住宅の場合ただでさえ狭い床をさらに分割することになります。段差をつけることで空間のメリハリはつきますが、ソファー、テーブルなど大き目の家具を置きたい場所は使いづらくなってしまう可能性があります。
そもそも正方形に近い床を横に区切ろうとすると細長い形状になってしまうため、使いづらそうですよね。スキップフロアはどちらかと言えば長方形の形状の家に向いている設計と言えるでしょう。
また、当然段差は階段で作るので、上のフロアまで上がる階段を作る分だけ通常の床が減ってしまいますね。階段は斜めに上がるしかないので、その分の幅がとられてしまう感じです。
最後に、スキップフロアは段差の付け方によって天井高にも差が出ます。天井高は低くてもいいところは低く、高いほうがいいところは高く設計しなければ視覚的に狭さを感じてしまいます。
後悔しないスキップフロアづくりのコツ
スキップフロアを使いすぎない
スキップフロアを多用しすぎると、分割された小さな床ばかりが存在し、家具が置きづらかったりこじんまりした印象になってしまいがちです。段差なく広く使いたい場所を確保することも場合によっては必要でしょう。
狭小住宅はメリハリが重要。ゆったり使いたい場所は広く高く、小さくても良かったり籠りたい場所は狭く低く、それを叶えてくれるのもスキップフロアのいいところなのでうまく取り入れましょう。
プライバシー重視の場所はきちんと個室にする
子供部屋や仕事部屋など、プライバシーを守ったり、音を遮断したりする必要がある場所は小さくてもいいから個室として作っておいたほうがいいです。(パーティションスタイルでもいいですね)
我が家は個室が風呂場しかなく(トイレもオープンスペース!)、ウェブミーティングとかがどうしてもしづらい環境…。テレワークなんて言葉がなかった時代の建築なので仕方ないですが。これから家を建てる皆様は小さくても完全個室にできる場所をひとつでも作っておくことをおすすめします!
段差を使える「居場所」にする
狭小住宅では、単なるフロアとフロアを繋ぐ移動手段にしないで、居場所としても使えるようにしておくと床面積の有効活用になります。最低限の大きさで狭く急な階段をつくるより、ゆったり広めで座ったりできる段差にしておくといいですよ。
まぁ、うちでは広めの階段が物置になったりしてますけど…。
スキップフロアが得意な会社に設計依頼する
スキップフロアは強度確保や法定床面積との兼ね合い、上下階のつながりを考慮した上でバランスを取っていかなければならず、通常の2階建て、3階建てなどより複雑でノウハウと経験が必要となる設計です。
ロフトや小上がり程度であればどこでも問題ないと思いますが、半階ずつずらすような段差を持ついわゆるスキップフロアの家にしたい!という希望をお持ちの方は、狭小住宅に長けている会社や設計士に設計を依頼したほうがよいでしょう。
理想的なスキップフロアを作るにはしっかり検討が必要
スキップフロアが実際にどんな空間になるのかを設計段階で想像するのは実はとても難しいものです。
我が家も、平面図や模型で見ていた感じではまったく想像がついていなかったのですが、ほぼ設計士さんを全面的に信頼してお任せした感じでした。
幸い、とてもいいバランスで床面の分割や天井高を設計していただいたのでとても満足度の高い仕上がりになりましたが、それでも「ここもうちょっと段差あったらよかったんでは…?」とか「ここもう少し広くとっておきたかった…」など、後から改善したくなった部分もあります。
もし、スキップフロアのある家を写真などでしか見たことがない場合は、ぜひ一度オープンハウスやモデルルームなどに行って体験してみることをおすすめします。
また一口にスキップフロアといっても段差の付け方は千差万別。せっかくスキップフロアにしたのにやっぱりやめとけばよかった…と後悔しないために、設計の際にはじっくり時間をかけて取り組んでみてくださいね。